以前、作家遠藤周作氏が講演録音の中でいわれていたことである。
非常に印象深い話で、少々正確さを欠くところもあるかもしれないが、今日は書いてみたい。
ある感染症の難病。
現在では治療可能な疾患ではあるが、当時は治療薬がなく、具合が悪いことに後遺症として身体の醜形を残すものであった。
伝染疾患であるため隔離のために療養所が設けられていた。
後年、氏がそこを訪問した時の話である。
おそらく取材をかねてのことだったろう。
院内を随行案内したのは、看護の長だった。
その者は、後遺症を呈した患者の一人にすり寄り、変形し拘縮したその手を、両手で包み込み、執拗にさすっていたという。
患者からすれば、自分の最も見られたくないものを、はじめて会う他者の目にさらされることになった。
氏は、その時の患者の、苦痛に満ちあふれた表情を生涯忘れられないと語っていた。
自分の場合、このような光景は、医療の現場で何度か見てきたような気がする。
いつもなにか釈然としなかった。
いや、
これに類似した光景は、現在でもマスメディア等、あらゆる分野で散見される。
善人ぶった人間の思い上がりである。