遠い昔の医学部時代のはなしである。
S君という同級生がいた。
彼は父親が早逝、母親が小料理屋をし、姉がそれを手伝うという家庭環境にあった。
私と同じアパートに住んでいた。
医学専門書というのは、一般書よりかなり高く、仕送りから支出していると、生活費が少なくなってくる。
彼の試験前の学習法はこうだ。
ブルーバックスシリーズという自然科学のトピックごとに書かれた数百円の小さな本を買い(どうも今も売っているようだ)、試験前に寝っ転がりながら読んでいる。
試験範囲に合致したトピックの本を買っていた。
彼は、100%、一回目の試験は落ちる。
再試験というのは必ずある。
合格した者からノートを借り、また本も借りられる。再試験にのぞむ。
そしてパスする。
ところがどうだろう、何年も経ってから、試験の時の知識が話題になると、私は忘れ去っているのだが、彼は実によく理解し覚えている。単なる暗記ではないようだ。
専門書というのは、知識のジャングルのようであり、草木を分け入ってみると、なにがなにやら、わからなくなる。
しかし彼が読んでいたブルーバックスシリーズは、その道の大家が著者であり、
「難しいことを簡単に説明できる人」が書いているのである。
しかも、小書のため、枝葉を省き、木の幹の話を書いている。
ラジオ番組で、ある小説家が子供のころ虜になった、子供向け日本歴史全書シリーズのことを語っていた。
やはり、池波正太郎など、その道の大家や歴史小説家が分担執筆者であり、子供にわかりやすく興味がわくように書いある大名著だったという。
S君の学習法は、やはりまちがった方法ではなく、まずは幹や根っこの理解、そして枝葉へとすすむやり方、これは、新しいことを学ぶときに大いに参考になりそうである。
この学習法を行えば、道に迷うことなく、専門の道に導入しやすいのではないか。。