イノシシに戦いを挑んだある男の顛末を書いてみる。
若いころの話である。
救急隊から連絡を受け、待っていた。
担架にのせられた、大男が運ばれてきた。
顔面は蒼白、ぐったりし、一瞬ショック状態かと思われたが、血圧などいわゆるvital signは保たれ、そうではなさそうだ。
しかし、腹部の端から端まで一直線に、その肥満した分厚い腹部の皮膚と皮下脂肪は、やや鈍的に深く切り刻まれ、結構出血していた。
深さは10㎝くらい切れている。
幸い、腹の中まで傷は達していなかった。
おそらく、出血に精神的なショックを受け、やっこさんは、ぐったりしたのだろう。
平素、自分の畑に出没するイノシシに頭が来ており、ついに一対一の対決に及んだ。
(やめておけばよかったのに。。)
自分は、動物実験で、豚を使用した経験から、容易にこの顛末は予想できる。
20㎏程度の子豚でも、押さえつけることなど決してできるものではない。
おそろしく力があり、機敏である。
豚より、パワフルで攻撃的なイノシシは、すざまじい跳躍力をもち、かつ、牙を有している。
この患者は、跳躍、突進してきたイノシシの牙に触れてしまったのだろう。
翌日の地方新聞に、小さく、この話が出ていた。
が、その行間を知るものは関係者のみであり、恐ろしさが人々に全く伝わるような内容ではなかった。
読んだ人は、「へー」と言った程度だろう...