この春頃、50年ぶりくらいに、この本を読み返した。
精神科医である筆者が、水産庁調査船での船医の体験をユーモラスに描いたものである。
発刊は、1960年、昭和35年。戦後15年ほどたったころ。まだ、都会でも舗装が完全ではなく、雨の日は学校の行きかえり、車の泥はね泥かぶりが体験できた頃である。
ある日、親父が、小生が今の職業になるように?誘導するかのように、この本を自分の机に置いてあったのである。
軽妙洒脱感満載の本で、実際には、中学生のころの自分には、この感覚は難しいものであった。
冗談、ユーモアなどの感覚的受容は、ひとの年季や熟成という段階を必要とするからであろう。
今回この年齢になり、仕事も第四コーナーをまわり(馬のようにラストスパートなどできるはずもなく、腰砕け状態である)、
地球を一周回った感のある今では、このユーモラスな感覚が実によくわかる。
いい本だ。気が楽になる。人生これでいいのだ。
西洋文学に精通する筆者の筆致は、時に急転し、妙にシビアな真面目な感じになる。
そのコントラストもいい。
日本にはユーモア作家というカテゴリーがなかなか生まれないそうである。
北杜夫氏は、そういう意味でも、かなり貴重な存在だったと思う。